昨今、害獣による被害が大きな問題になっていますよね。野生の獣が人里に降りてきて、農作物を食い荒らしたり、民家に侵入したり、人間に危害をくわえたりといった話を耳にしたことがある人も多いことでしょう。
過去には大型の害獣によって人命が失なわれてしまったという事件もありますから、これは大変深刻な問題です。
そんな害獣の中に、「タイワンリス」というリスの一種が含まれているのをご存知でしょうか?
リスはその愛らしい外見で、ペットとしても人気の高い動物です。しかし、タイワンリスは国内に甚大な害獣被害をもたらしているということで大きな問題となっているのです。
本記事ではこのタイワンリスについて、その生態系から実際に起きている被害、駆除するためにはどうしたらいいかなどをご紹介します。
ニホンリスと見分けにくいタイワンリスの生態
リスの中にも害獣として相応の対処が必要な種類と、積極的に守らなければならない種類があります。見かけたリスすべてを害のある生き物として扱ってしまわないように、種類ごとの違いを知っておきましょう。
タイワンリス(クリハラリス)の生態
タイワンリスはインド東部から中国や台湾、インドシナやマレー半島といった広範囲に分布している「クリハラリス」というリスの亜種であり、台湾の固有種とされています。
短い体毛は背面が灰褐色に近いく、腹側は黒と黄土色が混ざり合ったような色です。腹部はその名を表すような栗色(赤褐色)です。なただしのですが、地域によっては全身が灰褐色ぎみであったりと、色に違いが現れることもあります。
体長と同じくらいの長さのフサフサとした尻尾をもち、丸くて大きな目は視野と視力に優れています。
基本的には昼行性とされていますが、環境によっては朝夕でも活発に動きまわることがあるようです。ふだんは樹木の上で単独生活をしており、幼い個体は小さな群れをつくって生活していることもあります。
木の上での動きは素早く、木々の間を1メートル近く跳躍することも可能なほど運動能力に優れています。鋭い爪をもつ四肢を使って自在に木を上り下りすることもできるため、地上に降りてくることも少なくありません。
彼らは植物の花や種子、果物や新芽など植物性のものを主食としていますが、昆虫を食べることもあります。冬でも冬眠することがないため、エサの少ない時期には樹皮を剥いで樹液を食べることもあるようです。
巣は、枝と枝の間だけでなく、樹木にあいている穴や民家の屋根裏などに、樹皮を材料にして球形のものをつくります。繁殖は年に1回程度おこなわれ、秋になると一組のつがいから1~2頭の幼体が生まれます。
ただし、エサが豊富であったりとタイワンリスにとって良好な成育環境だった場合、多いときには年に3回も繁殖することがあり、最大で4頭出産することもあります。
寿命は野生のものだと4~5年程度といわれていますが、人の飼育下にあるものは長寿になる傾向があります。中には野生の3倍近い年数を生きていたという個体も記録に残っているようです。
タイワンリス・ニホンリス・シマリスの見分け方
タイワンリスとニホンリス(ホンドリス)は一見すると似ていますが、腹部の毛並みなどを見比べることで見分けることができます。赤褐色や灰褐色である場合が主なタイワンリスとは違って、ニホンリスの腹部は白色なので簡単に見分けることが可能です。
また、耳が短くて丸いタイワンリスとは違って、ニホンリスは冬毛になると耳の先端にも毛が生えて全体的に尖っているような形になることからも見分けられます。
さらに、体の大きさを見比べても違いは一目瞭然です。大きいものでは全長が40センチを超えることもあるタイワンリスのほうが、ニホンリスと比べて明らかに大きいことがわかります。
シマリスと他二種との見比べ方はとても簡単です。タイワンリスやニホンリスとは違い、シマリスの身体には名前通りの特徴的な縞模様がありますよ。
タイワンリスは台湾から来た特定外来生物
元々台湾に分布していたタイワンリスですが、1935年ごろから日本に生息するようになったと言われています。
動物園で飼育されていたものが逃げ出したり、ペットとして飼育していたものが放されたり、観光促進のためにわざと放し飼いをしたりといった経緯で、国内での分布域はどんどん拡大されていきました。
そんなタイワンリスが「特定外来生物」に指定されたのは、2005年のことです。
特定外来生物という言葉を耳にする機会も増えた今日この頃ですが、みなさんはこの言葉の意味をご存知でしょうか?
特定外来生物とは、海外が起源の外来種の中でも日本固有の生態系や国民の生命、あるいは農作物への深刻な被害を及ぼすものや、被害を及ぼす危険性が高い種の中から指定されています。
生きている個体だけではなく卵や種子なども含まれ、日本に元からいた生物、つまり在来種ではない種類の中で、とくに日本の自然環境を脅かす危険性が高い生物を指す言葉なのです。
この特定外来生物であるタイワンリスによって日本国内ではすでにさまざまな被害が出ており、日本にとって大きな脅威になっています。どれだけ愛らしい風貌をしている生物であっても、しっかりとした防除をおこなわなければならないということですね。
タイワンリスの生息は「フィールドサイン」を確認する
特定の獣がその地域に生息しているかどうかを確かめるためには、その獣が残してくれた「フィールドサイン」の有無を調査することが重要になってきます。
フィールドサインとは、野生動物が残した足跡やフン、食べ残し、あるいは鳴き声などを指す言葉です。つまりその野生動物が生息しているうえで必ず発生する痕跡のことです。
タイワンリスの場合は、まずは鳴き声が聞こえてこないか、よく耳を澄ませてみましょう。ニホンリスなどと比べて鳴き声が高く、より特徴的です。もしもタイワンリスが生息していれば、彼らの鳴き声が聞こえてくる可能性は高いでしょう。
タイワンリスはワシやヘビなどの天敵を察知すると、空の脅威に対しては「カッカッカッ」と、地上の脅威に対しては「ワンワンワン」と鳴きます。こうして仲間たちに「警戒しろ」と合図を送っているのです。
その声質は、小型犬やアカゲラという鳥の鳴き声によく似ていると言われています。もしもこのような鳴き声が聞こえてきたときには、タイワンリスの存在を疑ってもよいでしょう。
さらに、木々の多い地域だと樹木の状態からもタイワンリスが生息しているサインが見つかることもあります。
果物が実っていればそれを齧った痕跡があるかもしれませんし、あるいは樹液を採る、木々の中に生息している虫を食べるといった目的で、樹皮が剥がされていることもあるでしょう。
とくにタイワンリスは特定の樹木に集中することがあるので、一本の木が見るも無残な被害を受けている場合もあります。そのため、樹皮がボロボロの状態になっている樹木を発見したときには、タイワンリスがいる可能性を考えたほうがいいでしょう。
ここで紹介したタイワンリスが残すサインは、どれか一つだけではなく、全てを考慮することでさらに正確なものになります。
小型犬やアカゲラみたいな鳴き声が聞こえてきたからといって、タイワンリスだとは限りません。本当に小型犬やアカゲラが鳴いている可能性もあります。
また、樹皮が剥がされている木々が見つかったからといって、それをタイワンリスの仕業と決めつけてしまうのもよくないことです。実は別の深刻な理由があったとき、それを見逃してしまうことにもなりかねません。
ですから、それらしい鳴き声が聞こえてきたら、あわせてその近くで被害を受けている樹木や果物がないかを探してみてください。反対に、酷い有様の樹木を見つけたらタイワンリスのような鳴き声が聞こえてこないか耳を澄ませることが重要です。
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タイワンリスによる深刻な被害は日本全国で発生中
外来種は日本固有の生態系を守るためにも、できるだけ駆除しなければなりません。ですが外来種とはいえ、命は命です。どんな被害を日本に与えているのかを知らずに、問答無用で駆除することはよくないとは思いませんか?
在来種を、日本の環境を、私たちの生活を守るためという意識をもって駆除に挑むためにも、まずはその外来種がどんな被害を与えているのかをちゃんと知りましょう。
繁殖力が高く駆除が難しい動物である
タイワンリスの繁殖については生態系のところでも触れましたが、彼らは環境によっては最高で一度に4頭もの子供を産みます。しかも多ければ年に3回も出産しますから、ひと組のつがいから多いときで年に12頭近く生まれてくる可能性があるということです。
さらに日本では、台湾やそれ以外の生息域と違って天敵となるタカやヘビの生息数が少ないことや、その動きの素早さから駆除が難しいなどの理由が相まって、タイワンリスは驚異的な速さで個体数を増やしてしまいます。
食害で生活環境・農作物・生態系を破壊する
タイワンリスが昆虫の捕食や樹液を採食するために樹木をかじったり樹皮を剥いでしまうことで、ひどいときには樹木が枯れてしまうことがあります。
また、他のエサが不足してしまう冬季にもタイワンリスは冬眠しないため、多くの樹木が被害を受けてしまっています。彼らが日本の木々に多大な悪影響を与えていることは明らかです。
さらに、収穫前の果物も容赦なく食べてしまうので農作物にも甚大な被害を及ぼすだけでなく、植物のつぼみや鳥類の雛まで食料にしてしまいます。このことは日本固有の植物や鳥類などの生物が、その個体数を減らすことに繋がるのです。
タイワンリスの食害の悪影響は自然環境だけにとどまりません。なんと、私たち人間の生活環境も脅かすことがあります。
これはタイワンリスが家屋の建材を齧ったり剥いだりするだけではなく、天井裏や戸袋に巣をつくり、そこで繁殖してしまうことがあるからです。彼らの抜け毛や糞によって健康が害されることもあれば、引っかかれたり噛みつかれたりすることでケガをする危険性も潜んでいます。
タイワンリスがニホンリスを絶滅に追いやる可能性がある
タイワンリスの繁殖によってニホンリスが絶滅する危険性は十分にありえます。野生化したタイワンリスは、現在もその分布図をどんどん広げていっており、いずれはニホンリスが生息している森林地域を侵食してしまうおそれがあるからです。
外来種と在来種が共存・共栄できる可能性は極めて低く、多くの場合、食料の取り合いや縄張り争いによって衝突してしまうものです。そうなったとき、身体が大きなタイワンリスのほうがニホンリスを圧倒してしまう危険性は十分に考えられます。
これまで生息していた地域での生存競争に負けてしまえば、その場から逃げる以外に生きていくことはできません。ですが日本に生息しているタイワンリスには天敵が少ないため、放置しておけばますますその数を増やしてしまいます。
個体数が増えれば、彼らは生息地域をさらに拡大しようとするでしょう。そうなってしまえば、ニホンリスの生息地はどんどん狭くなっていきます。やがてはエサの確保が困難になり、繁殖にも悪影響が出て、駆逐されてしまうかもしれません。
日本の固有種を守るためにも、タイワンリス対策は必須といえます。とはいえ、タイワンリスは後述の「鳥獣保護管理法」で守られている生物でもあるため、いくら特定外来生物とはいえ見かけたからすぐに殺処分するということはできません。
正しい手順を踏んでから、タイワンリスを駆除しましょう。
※1 対応エリア・加盟店・現場状況等により記載内容の通りには対応できない場合がございます。※2 手数料がかかる場合がございます。一部加盟店・エリアによりカードが使えない場合がございます。
タイワンリスを撃退!自分でもできる対策
タイワンリスのような外来生物を駆除するのは、プロにとっても大変なことです。ですから、豊富な知識や技術をもたない民間人が駆除をしても、成功率は極めて低くなってしまいます。
とはいえ、何も手を打たなければタイワンリスの思うがままです。無理のない範囲であれば、自分でできることをやっておいて損はありません。
以下には個人でできる簡単なタイワンリス対策をまとめました。どれも比較的取り掛かりやすい手段ですから、ぜひ試してみてください。
嫌いなにおいを使って忌避させる
タイワンリスは「木酢液(もくさくえき)」の臭いを嫌います。木酢液とは木材を熱したときに発生する煙を液状化したもので、ツーンとした臭いが特徴的です。食害の影響を受けてしまう作物や樹木などの周りに散布するだけでも、彼らを忌避する効果があります。
また、においとは少々違ってくるかもしれませんが、タイワンリスは辛味成分も嫌う傾向があります。ですから、唐辛子の成分が含まれた液体も忌避剤として効果があると考えられます。
唐辛子液は自然に優しい天然由来の素材であるため、大切に育てている農作物にも安心して散布できます。防虫効果も期待できるので、一石二鳥といえるでしょう。
これらの「におい」を利用した対策は長くても一週間ほどしか効き目が持続しませんので、定期的に散布することをおすすめします。
侵入口になる防護ネット・柵・戸袋の隙間を塞ぐ
タイワンリスが家屋へ侵入することを防ぐうえで大事なことは、いかに彼らの侵入経路となる隙間を塞ぐかになります。隙間を板などで徹底的に塞いでしまうことは不可能に近いので、隙間の前に防護ネットを張ったり、柵を置いたりするのが現実的な対策といえるでしょう。
ですが、これらの対策グッズは台風などを受けて外れてしまう場合もあります。長期にわたって侵入を防ぎ続けることは極めて難しいので、自治体や業者に連絡をしてから無事に駆除が完了するまでの一時的な防衛策と考えてください。
樹木・下草をしっかり管理する
果実や樹皮への食害を完全に防ぐことは困難ですが、果実であれば一つ一つをネットで丁寧に包んだり、樹皮であれば幹や枝にネットなどを巻いたりすることで被害を軽減することが可能です。
畑に下草があればそこにタイワンリスが身を潜ませることもありえるので、余計な雑草は定期的に取り除いてしまったほうがいいでしょう。
タイワンリス対策で必ず注意しなければいけない法律
手段を選ばずにあらゆることをして挑んでもいいという状況なら、駆除のことで悩む必要はありません。しかし、当然そうはいかないものです。
タイワンリスに限らず、野生動物の生命は法律によって守られています。駆除する前に注意すべきことを確認しておきましょう。
法律をきちんと確認・行政へ相談
タイワンリスは「鳥獣保護管理法」という法律の保護下にあります。鳥獣保護管理法とは、動物に故意にケガを負わせたり、無許可で殺処分をおこなったりしてはいけないという法律です。実は、この動物の中には特定外来生物も含まれているのです。
しかし、鳥獣保護管理法の保護下にある生物の中でも「狩猟鳥獣」に指定されている動物については、自治体の許可を得ることなく駆除できる場合があります。
ですが、狩猟鳥獣に指定されている動物であっても、狩猟者として各都道府県に登録されている者が期間や猟法などの定められた制限を遵守したうえでしか殺処分できません。
つまり、狩猟免許を所有していない人や所有していても狩猟者登録をしていない人は、絶対に無許可で駆除してはいけないということです。
タイワンリスはこの狩猟鳥獣に指定されていますから、捕獲も殺処分も自治体からの許可なくおこなうことができます。しかし、それらをおこなうために守らなければならないルールがいくつもあるのです。
もしもタイワンリスを見かけた場合は、迷わずお住まいの自治体や専門の業者へ相談してください。
捕獲には専用の道具が必要
タイワンリスの駆除には許可が必ず必要ですし、守るべき規則がたくさん存在します。しかし、勝手に駆除できないからといって放置していれば、被害は深刻化していくばかりです。
タイワンリスに無抵抗でいることは、農作物への食害や家屋への侵入と繁殖などに苦しめられる日々を待つようなものと言えます。こうした事態を避けるためには自分で、あるいは近隣住民と協力して、適切な防衛策をとらなければなりません。
主な防衛策として、ネズミの捕獲などにも使用される市販の「箱わな」を使う方法があります。内部にミカンやリンゴ、サツマイモやピーナッツバターなどを置いた箱わなを樹上の枝などのできるだけ水平な場所に設置することで、タイワンリスを捕獲することが可能です。
ただし長い間同じ場所に設置したままでいると捕獲の効率が低下してしまうため、ある程度時間が経つたびにわなを移動させましょう。
素手で触らないように気を付ける
実は、野生のリスはその体内に恐ろしい病原体をもっている危険性があります。
ペスト
ペスト菌によって発症するもので、げっ歯類もよく感染します。ペストを発症したリスの血を吸ったノミから人間に感染することもあるので、注意が必要です。
日本での感染例はしばらく報告されていませんが、リスと同じげっ歯類であるプレーリードッグがペストによって大量に死んでしまったという事故が過去にアメリカで起こっています。
このことから、野生のタイワンリスがペストを発症しないとは言い切れません。
野兎病
野兎病菌に感染することで発症する可能性のある病気で、ウサギやリスなどのげっ歯類に多く感染します。咬創からの感染だけでなく、皮膚からも侵入できるほどその感染力は高いです。
人に感染した場合は約一週間の潜伏期間の後、38度から40度の発熱や頭痛・筋肉痛などの症状が全身に現れることがあります。感染箇所によってはリンパ節で腫瘍ができることもある、恐ろしい病気です。
げっ歯類に感染するものなので、日頃から監督されていない野生のタイワンリスが保菌していないとは限りません。
レプトスピラ症
レプトスピラ症はレプトスピラ菌による感染症で、リスが感染すると腎臓内で増殖して尿に含まれ排出されます。
その尿はもちろん、尿のかかったトイレ砂や建材などに触れてしまうことで、人間にも感染します。この病気は日本でも多くの死者を出している恐ろしい病気です。
リスを媒介にして人間に感染する病気は他にもさまざまあり、どれも恐ろしいものです。
日本にペットとして輸入されてくるリスは、感染症法によって感染病に関しての安全がちゃんと証明されている個体のみです。
しかし、日本国内で野生となり、健康状態の調査など一切されないまま野生の中で繁殖した個体が、体内にどんな菌をもっているかは未知数です。
野生のリスについては、絶対に素手では触らないようにしましょう。
まとめ
タイワンリスは愛らしい外見をしていますが、特定外来生物にも指定されている駆除が必要な動物です。放置しておけば私たちの生活環境が壊されるだけでなく、大切な在来種であるニホンリスの生存が脅かされてしまうおそれもあります。
駆除をするにも許可が必要で、不慣れな人間が太刀打ちできるほど軟弱な動物ではありません。駆除に時間をかければかけるほど、被害はより大きく、深刻なものになってしまう危険性も高くなります。
タイワンリスの駆除が必要になった場合は、きちんと専門の業者に相談したうえで駆除を依頼しましょう。