「ヒメスズメバチという蜂は、どのような蜂だろう?」
「危険な蜂ではないのかな?どうやって見分けたらよいのだろう?」
そのような疑問にお答えします。
もしも公園やキャンプ場、あるいは家の近くでヒメスズメバチを見かけることがあっても、過度におそれる必要はありません。
じつはヒメスズメバチは、小さな巣を作る出現時期の短い種類だからです。
またおとなしく攻撃性も低いため、こちらから手を出さない限り人間を襲うことはまずありません。
そこでこの記事では、スズメバチのなかでも個性的なヒメスズメバチの生態的特徴や危険性、もしも家に巣を作られたときにはどうすればよいのかを解説します。
この記事の概要は以下のとおりです。
この記事を読めばヒメスズメバチについて詳しくなり、遭遇しても慌てずに対処できます。
ヒメスズメバチでお悩みなら、ぜひこの記事で不安を解消してください。
ヒメスズメバチの見た目と特徴
分類 | 節足動物門/昆虫綱/有翅昆虫亜綱/ハチ目/スズメバチ科/スズメバチ亜科/スズメバチ属 |
学名 | Vespa ducalis |
亜種 | ヒメスズメバチ(日本本州産)(学名Vespa ducalis pulchra) ツシマヒメスズメバチ(学名 Vespa ducalis esakii) リュウキュウヒメスズメバチ(学名 Vespa ducalis loochooensis) |
分布 | ヒメスズメバチ(日本本土産):本州、四国、九州 ツシマヒメスズメバチ:対馬 リュウキュウヒメスズメバチ:石垣島、西表島 |
体長 | 22~37mm程度 |
まずはヒメスズメバチの基本的な生態や、他のスズメバチとどう違うのかを確認していきましょう。
この章では、ヒメスズメバチの見分け方と大きさについて解説します。
ヒメスズメバチの見分け方
ヒメスズメバチを見分けるポイントは3つです。
- 3色の模様
- 黒いおしり
- 黒いアゴ
では他のスズメバチと比較しながら解説します。
3色の模様
蜂といえば黄色と黒の縞模様があるイメージですが、ヒメスズメバチは黄色と黒、そして赤茶色の3色の模様をしています。
■ ヒメスズメバチ(3色の縞模様)
■ キイロスズメバチ(2色の縞模様)
黒いおしり
多くのスズメバチはおしり(腹部の先端部分)が黄色いのに対して、ヒメスズメバチはおしりが黒いのが他のスズメバチと違うポイントです。
■ ヒメスズメバチ
(おしりの先端が黒い)
■ モンスズメバチ
(おしりの先端が黄色)
黒いアゴ
顔先のアゴ全体が黒いのも、ヒメスズメバチの特徴です。
他のスズメバチは顔と同じ黄色か、一部がやや黒っぽい程度が多いです。
ヒメスズメバチはアゴ全体が黒いため、大きな特徴です。
■ ヒメスズメバチ
(アゴ全体が黒い)
■ オオスズメバチ
(アゴ全体が黄色い)
亜種2種類は見た目が異なる
亜種とは、生物分類の単位の1つで一言でいうと「同じ種類でも少しだけ違いが見られる生物」につけられるものです。
ヒメスズメバチは長崎県の対馬と沖縄県の離島で、本州のヒメスズメバチと違う外見的特徴を持った亜種が2種類確認されています。
対馬海峡に浮かぶ島である対馬に生息するツシマヒメスズメバチは本州産と違って、おしりの先端にわずかに黄色い部分があるのが特徴です。
(最終閲覧日:2024年7月4日)
沖縄県の離島である石垣島、西表島に生息するリュウキュウヒメスズメバチは本州産と同じくおしりは黒いですが、腹部の根元側に黄色い部分が多いです。
参考:九州大学大学院 農学研究院 生物的防除研究施設|リュウキュウヒメスズメバチ(最終閲覧日:2024年7月4日)
大きさは日本トップクラス
ヒメスズメバチは体長22~37mm程度と、スズメバチのなかでも大きめの体格をしています。
日本に生息する17種のスズメバチのなかで最大種であるオオスズメバチに次いで、ヒメスズメバチは2番目に大きな蜂です。
また大きさの話だと、ヒメスズメバチ同士の体長の個体差が小さいのも特徴です。
社会性の蜂には女王蜂、働き蜂、オス蜂といった役割分担があり、女王蜂は他の個体に比べて大きいことが多いです。
しかしヒメスズメバチの群れには大きめの働き蜂も出現することがあり、大きさだけではほとんど区別がつきません。
以下の記事ではヒメスズメバチ以外のスズメバチについても解説しています。
それぞれの特徴や違いを詳しく知りたい方はぜひご覧ください。
ヒメスズメバチの見た目が分かったところで、次は食性や性格の内面を見ていきましょう。
ヒメスズメバチの食性と性格
ヒメスズメバチのエサと攻撃性について解説します。
ヒメスズメバチはアシナガバチの幼虫を好むため、活動時期はアシナガバチに依存しています。
また人間に対しては、攻撃性が低いのも特徴的です。
詳しく見ていきましょう。
アシナガバチの幼虫を好む
ヒメスズメバチの食性はスズメバチのなかでも独特で、アシナガバチの幼虫やサナギをほぼ専門に狙っています。
ヒメスズメバチはアシナガバチの巣を襲撃し、巣の中にいる幼虫やサナギを奪います。
奪った幼虫やサナギの体液を吸い取って巣に持ち帰り、ヒメスズメバチの幼虫に与えるのです。
襲うのはアシナガバチの幼虫だけで、アシナガバチの成虫を狙うことはありません。
以下はヒメスズメバチがアシナガバチの巣を襲っている写真です。
周りの蜂よりも大きな蜂が、ヒメスズメバチです。
出典:東京ズーネット|アシナガバチ一家、襲撃される(最終閲覧日:2024年7月4日)
ちなみにヒメスズメバチの成虫は、アシナガバチの幼虫を食べません。
他のスズメバチ同様、木の樹液や花の蜜、幼虫が分泌する栄養液などを食べています。
ヒメスズメバチの活動時期は5~9月
多くのスズメバチの活動時期は4月~11月頃なのに対して、ヒメスズメバチは5月下旬~9月頃までです。
これはスズメバチのなかでもっとも短い期間です。
ヒメスズメバチの活動期間が短いのは、主食であるアシナガバチの活動時期が影響していると考えられています。
- アシナガバチの幼虫・サナギが多い時期
-
7~9月頃
- ヒメスズメバチの活動時期
-
5月下旬~9月頃
アシナガバチの活動時期は4月中旬~10月頃ですが、サナギが多い時期は上記のとおりです。
体の大きなヒメスズメバチが生きていくためには、食糧となるアシナガバチの幼虫やサナギが大量に必要です。
そのため、ヒメスズメバチはアシナガバチの幼虫やサナギが豊富にいる時期にしか活動できません。
ヒメスズメバチはアシナガバチが巣を拡大しようとたくさんの卵を産み育てている時期に合わせて巣作りを始め、アシナガバチが新たに卵を産まなくなる頃に活動を終えます。
毒性・攻撃性は低くおとなしい性格
攻撃性の高いススズメバチのなかでも、ヒメスズメバチは危険性の低い種類といえます。
ヒメスズメバチは毒性が弱いうえ、性格が温厚でめったに人を攻撃しません。
攻撃性の高いオオスズメバチやキイロスズメバチは巣の10m以内に人が近づくだけで威嚇(いかく)をし、それ以上近づけば攻撃を仕掛けることがあります。
それに対してヒメスズメバチは、巣の十数cmまで近づいても威嚇をしてこないことが多いです。
巣を攻撃しても威嚇だけで、攻撃をしないケースもあります。
ヒメスズメバチは活動時期が短く、おとなしい性格のため危険性が低い蜂ですね。
ただしおとなしいとはいえスズメバチのため、不用意に触ると刺される可能性があります。
ヒメスズメバチや巣を見つけても触らないでください。
次はヒメスズメバチの巣について解説します。
ヒメスズメバチの巣の特徴
ヒメスズメバチの巣は、他のスズメバチに比べて独特な形状をしています。
ヒメスズメバチの巣や営巣場所の特徴について解説します。
内部が見える巣を作る
出典:国立研究開発法人 森林研究・整備機構|森林生物 ヒメスズメバチ(最終閲覧日:2024年7月4日)
ヒメスズメバチの巣は、スズメバチとアシナガバチの巣の中間のような形です。
■ スズメバチの巣
■ アシナガバチの巣
スズメバチは周りを外皮でおおわれた、球体状の巣を作る種類が多いです。
一方アシナガバチはシャワーヘッド型で、六角形の穴が並んだ巣盤が露出している巣を作ります。
ヒメスズメバチの巣にも外皮がありますが、傘のように上部をおおっているだけで、下から見ると巣盤が見えます。
本州を中心に閉鎖的な場所に巣を作る
ヒメスズメバチは日本の広い範囲に分布しており、街中や森の中などさまざまな場所に生息しています。
日本のヒメスズメバチは本州を中心に、四国、九州にも分布しています。
またヒメスズメバチがよく巣を作る場所は、住宅の床下、屋根裏、戸袋、壁の隙間、木のうろなど閉鎖的な場所です。
なかには水道のメーターボックスに、巣を作られたケースもあります。
他にも、主食であるアシナガバチが多くいる地域に巣ができやすいのも大きな特徴です。
アシナガバチが繁殖している地域にはヒメスズメバチの巣も密集していることが多く、同じ建物内に複数の巣が作られたケースもあります。
アシナガバチは住宅や公園など人の生活圏内に巣を作りやすいため、ヒメスズメバチも同じ場所に巣を作ることが多く、ヒメスズメバチは身近な場所で遭遇しやすい蜂といえます。
営巣規模はスズメバチのなかでもっとも小さい
集団生活をするスズメバチのなかで、ヒメスズメバチはもっとも小さな巣を作ります。
ヒメスズメバチの巣は最大でも直径10cm程度で、巣の中の個体数も10~80匹程度です。
人間のこぶしが男女ともに約8cmといわれているため、おおよそこぶしほどの大きさでしょう。
大規模な巣を作るキイロスズメバチは巣の大きさが最大1m程度、個体数が千匹以上にもなるため、その差は歴然です。
ヒメスズメバチは活動時期が短く、巣も小さく、おとなしいスズメバチです。
こちらから手を出さない限り、襲いかかることはありません。
しかし場合によっては駆除が必要な場合があります。
次の章で解説します。
危険性は低いが場合によっては駆除も必要
ヒメスズメバチを駆除する基準は以下の場合です。
- 巣を直接刺激するおそれがある場合
- 近隣トラブルのおそれがある場合
上記をまとめると「身近な場所に巣を作られた場合」です。
人通りの少ない林などに作られたヒメスズメバチの巣なら、基本的に駆除の必要はありません。
ヒメスズメバチは活動時期が短く、おとなしい性格をしているためわざわざお金をかけて駆除することもないからです。
ただし身近な場所に巣を作られた場合は、別です。
ご自身だけなくご近所の方が被害に遭う可能性もあるため、駆除を考えましょう。
巣を直接刺激するおそれがある場合
もしも自宅の敷地内や周辺にヒメスズメバチの巣がある場合、巣から十分な距離を保って日常生活ができる状況でなければ、駆除する必要があります。
おとなしいヒメスズメバチでも、巣に直接触ったり衝撃を与えたりなどの刺激があると人を攻撃するおそれがあるからです。
例えばよく開け閉めするドアの付近、人や車が頻繁に通る場所の木や土の中などに巣がある場合、知らず知らずのうちに巣に刺激を与えて攻撃されることもありえます。
安全に距離を保って共存が難しいのであれば、安全を最優先して駆除しましょう。
近隣トラブルのおそれがある場合
近隣の住民が刺されてしまったり、蜂に関する苦情が発生したりといったトラブルになるおそれがあるなら駆除が必要です。
自分自身は気をつければ共存ができても、事情を知らない近隣の方にはむずかしいでしょう。
自宅の敷地内にできたヒメスズメバチの巣を放置していたことで近隣の人が刺されるなどの被害にあった場合、その損害に対する賠償責任が発生する場合もあります。
ヒメスズメバチの生態をご近所に説明しご理解いただけるとよいのですが、やむをえない場合は駆除も考えましょう。
ヒメスズメバチの駆除は業者依頼がおすすめ
ヒメスズメバチの巣を駆除する場合、自力で駆除しようとするのはおすすめしません。
理由は以下のとおりです。
- 屋根裏など閉鎖的な場所に巣が多く、駆除作業が大変なため
- 狭い場所に巣を作り、全容把握がむずかしいため
- おとなしいとはいえ、巣を攻撃すると刺されるおそれがあるため
ヒメスズメバチは狭く閉鎖的な場所に巣を作ることが多いため、巣の全貌が把握しにくく、殺虫スプレーが十分に届かないおそれもあります。
蜂に対して知識があり、防護服などの準備が整っている方なら自力駆除は可能でしょう。
しかし慣れていないと自力での駆除は失敗するおそれがあるため、確かな知識と技術を持った蜂駆除のプロに依頼するのが確実で安全です。
「蜂の巣駆除はどこに頼めばいいのかわからない」という場合は、ぜひハチ110番にご相談ください。
ヒメスズメバチをはじめ、スズメバチを安全に駆除できる蜂駆除のプロをご紹介しております。
無料相談窓口では24時間365日ご相談を受けつけておりますので、ぜひお気軽にご連絡ください。
※対応エリア・加盟店・現場状況により、事前にお客様にご確認したうえで調査・見積もりに費用をいただく場合がございます。
※対応エリア・加盟店・現場状況により、事前にお客様にご確認したうえで調査・見積もりに費用をいただく場合がございます。
ヒメスズメバチに刺された場合の対処法
ヒメスズメバチに刺されたら、早急に適切な対処が必要です。
ヒメスズメバチはおとなしい蜂で、あまり人を刺す蜂ではありません。
しかしヒメスズメバチに刺された事例はあり、刺されると「瞬時刺傷部に激痛が走る」そうです。
参考:大利昌久、樋山御理男|ヒメスズメバチVesPatropicaの刺傷によるアナフィラキシーショックの一例(最終閲覧日:2024年7月4日)
また刺されると痛みだけでなく、体内に毒液が注入されて起こる「アナフィラキシーショック」という重篤なアレルギー症状によって死に至る可能性もあります。
万が一のときに備えて、正しい対処法を知っておきましょう。
- 身を低くして安全な場所に移動する
- ツメで毒を絞り出し、刺された箇所を水で洗浄する
- 虫刺され薬を塗布し患部を冷やす
- 医療機関を受診する
以下の記事では蜂に刺されたときの症状やポイズンリムーバーの使い方などについても詳しく解説しているため、ぜひご覧ください。
まとめ
最後にこの記事のポイントをまとめました。
- ヒメスズメバチは出現時期が短く、小さな巣を作る
- エサはアシナガバチの幼虫で、人間を襲うことはまずないおとなしい蜂
- 危険が迫るとヒメスズメバチであっても刺す可能性があるため、手を出さない
ヒメスズメバチは、こちらから近づかない限り無害です。
ただし自宅にヒメスズメバチの巣ができると、巣と接触したり、ご近所の方が不安がったりと被害がでます。
適度な距離を保ちつつ生活し、それがむずかしい場合のみ駆除業者に相談しましょう。
参考文献
中村雅雄『スズメバチの真実:最強のハチとの共生をめざして』八坂書房(2018)
丸沢丸『超危険! スズメバチLIFE 図解とマンガでわかる最凶生物』講談社(2019)
小川原辰雄『人を襲うハチ 4482件の事例からの報告』山と渓谷社(2019)
松浦誠『都市における社会性ハチ類の生態と防除』(2004)
ヒメスズメバチ|上野高敏 -Takatoshi UENO-|九州大学大学院 農学研究院 生物的防除研究施設(最終閲覧日:2024年7月4日)
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